短期インフレ連動債にとっての好機が到来?
エリダ・リナルス(インフレ連動債運用チーム共同責任者、シニア・ポートフォリオ・マネージャー) 中東情勢の悪化によって引き起こされたインフレ懸念を背景に、世界的に金利が大幅に上昇しました。 この金利上昇は、米国とイランの紛争の影響で中東からの石油・ガスの輸入がほぼ停止し、エネルギー価格が高騰したことがきっかけでした。 こうした状況を背景に、インフレ懸念が一層高まっています。紛争が長引けば、時間の経過とともに世界経済や物価の安定に悪影響が及び、インフレ上昇と経済成長停滞が混在するスタグフレーションに陥るリスクが高まるでしょう。 通常、景気が低迷すれば、需要の減少と労働市場の悪化によって物価上昇が抑制されるため、経済成長停滞と高インフレの組み合わせ(スタグフレーション)は先進国ではあまり起きない現象です。こうした環境下で、市場は中央銀行が2026年に利下げよりも利上げを行うと予想を変化させました。投資家の見通しの変化によって、短期債も今年3月は債券売りの矢面に立たされました。図表1は、米国、フランス、英国における主要な債券利回りの3月の推移を表しています。 短期インフレ連動債がポートフォリオを守る可能性 インフレの上昇は、名目利回りが一定で物価上昇と相関しない通常の債券(名目債)を下落させる傾向があります。投資家は文字通り名目のクーポンを受け取り続けますが、インフレの加速につれて実質価値が損なわれ、実質のリターンは圧縮されます。 名目債とは対照的に、インフレ連動債は、支払われるキャッシュフローが物価上昇を反映するように調整されるため、投資家はインフレの先回りをすることが可能になります。インフレ連動債には、食品とエネルギーを含む総合インフレ率に連動するという特徴があります。 このインフレとの継続的な連動性により、インフレ連動債の元本とクーポンは時間の経過とともに変化します。物価が上昇すれば、インフレ連動債の元本は時間の経過とともに、対応するインフレ率と同じ割合で増加します。 インフレとの連動性は時間をかけて徐々に効果を発揮します。つまり、市場が現在経験しているような非常に不安定な環境の下で、インフレ連動債のリターンは主に実質金利の動きに左右されることになります。 しかし、短期のインフレ連動債(満期まで1~5年)に限定すれば、投資家は実質金利の変化がリターンに及ぼす影響を抑制しつつ、物価連動のメリットに影響を限定することが可能です。 期待インフレ率だけでなく、実現インフレ率にも注目 今年3月の短期インフレ連動債のリターンが実証しているのは、インフレ連動債にはインフレショックから投資家を保護する機能が見られるということです。期待インフレ率(ブレークイーブン・インフレ率)の月次リターンは+1.15%、短期インフレ連動債の絶対リターンは+0.05%となりました(3月の月初来30日まで)。これに対し、短期固定利付債のリターンは-1.10%でした(米ドルヘッジベース後)。 当社では、短期インフレ連動債について強気な見通しを維持しています。執筆時点(2026年3月31日付)、期待インフレ率はエネルギー価格の短期的な上昇とそれによる年末までのインフレ上昇を完全に織り込んでいると見られます。 そのため、期待インフレ率がさらに上昇するためには、エネルギー価格が現在の水準からさらに持続的に上昇するか、または、インフレに対するその他何らかのショック(関税、サプライチェーンの混乱、賃金の上昇など)が生じる必要があると考えられます。 このようなショックは、化石燃料(石油とガス)の価格が非常に高い水準で維持されるという好ましくないシナリオ、例えば、2026年はバレル当たり平均100ドルで推移し、2027年になってようやく(80ドル程度に)反落するといったシナリオによって生じる可能性があります。 このシナリオでは、特に冬前の在庫蓄積期間において、欧州のガス供給に継続的な負荷がかかることが想定されます。価格は、2026年には平均で1メガワット時(MWh)あたり約70ユーロ、2027年には1MWhあたり61ユーロに達することが想定されます。さらに、(食料インフレ率の上昇をもたらす)肥料価格の上昇や、ヘリウムなどのガス生産に伴う副産物の供給減少といった、ホルムズ海峡の緊張の二次的影響も考えられます。 インフレ期待は市場に公正に織り込まれているとみられ、短期インフレ連動債のリターンの主な源泉は、ますます実現インフレ率に依存するようになると考えています。 3月以降のエネルギーショックとそれに伴う物価の上昇は、物価連動によるインカム収入の増加をもたらします。 下のチャートに見られるように、現在の市場環境の下で、短期インフレ連動債からのインカム収入は、主にインフレと連動する仕組みによって4月から今年末まで3%~3.5%で推移すると当社は推定しています。 今後数カ月間の物価連動によるインカム収入は、2022年(インフレショックが起き、中央銀行が金融引き締めを余儀なくされるとの懸念が生じたという点で、今年3月の状況と類似)に発生したような実質金利の大幅な上昇から生じる損失をカバーするほどの高い水準に達すると考えられます。 …
25/09/26