私たちの地球の大部分が青い理由-それは、水が豊富にあるからです。私たちの生命・生活は水に依存しています。海洋は気候変動の緩和にとっても重要です。海洋環境の維持と保全には、沿岸を管理する規制当局や公共団体だけでなく、民間部門、さらには消費者による投資も必要とされています。
6月8日の「世界海洋デー」に際し、私たちは政策の進捗状況を確認するとともに、海洋環境の健全性を促進するための取り組みについて考えていきたいと思います。
なぜ海洋が重要なのか?
何十億人もの人々は食糧を海洋に依存しており、また、地球上のすべての人々が気候変動の緩和においても海洋に依存しています。海洋は、人間の活動によってもたらされる過剰な温暖化要因の90%を吸収する一方、地球上の酸素の50%を生成しています。そして、世界の二酸化炭素排出量の30%を炭素隔離していると試算されています。
しかし、海洋がこうした役割を行うのに苦慮しているという兆候もあります。今年3月には、平均海水温が21.1℃という記録的な水準まで上昇し、その状態が42日間も続いたことに科学者らは懸念を示しています。大気中に排出された過剰なCO2によって海洋酸性化が進み、過去200年間で海水の酸性度は30%上昇しました。これは、過去5,000万年における海洋環境の変化よりも速い速度です。こうした変化は、海洋生物と炭素吸収源としての海洋の役割に悪影響を与えます。それが、化石燃料の使用によるCO2排出削減を必要とするもう1つの理由と言えます。
幸いなことに、世界の海域を保護するために国際的な政策は進展を見せています。しかし、こうした政策は「ブルー・アクセラレーション」と呼ばれる21世紀初頭以降の海洋の急速な産業化に対応するのに苦慮しているようです。実際に海洋では、100万キロメートル超の光ファイバーケーブルが敷設される一方、9,000以上の石油プラットフォームが建設され、さらに多数の洋上風力発電所が建設されるといったことが起こっています。
経済成長と持続可能性(サステナビリティ)を組み合わせた「ブルーエコノミー」の進展が期待される一方、専門家らは気候変動による海洋への影響、資源消費の拡大とエネルギー転換の必要性などを巡って懸念を表明しています。
最近では、こうした問題に取り組む2つの政策に特に注目が集まっているようです。それは、国連の公海条約とプラスチック条約です。
公海条約
公海は海面の3分の2を占めています。歴史的に、こうした公海は(領海と違って)ほとんど管理されておらず、一般的に乱獲が行われることが多く、水産資源の3分の1が枯渇し、10%は絶滅の危機に瀕しています。今年3月に署名された国連公海条約は、各国に対して公海での行動の責任を問うことを目的としたものです。
この条約の下では、海洋保護区を指定することが可能となり、海洋遺伝資源の利益分配、環境影響評価が実施されることになります。公海および領海に影響を与える法制化に際し、「重大な汚染」または「海洋環境への有害な変化」を引き起こす可能性のある活動を行いたい場合、各国は海洋環境への影響評価を実施し公表することが定められました。代替案を模索したり、海洋環境悪化を防止・軽減・制御する方法を検討することも必要になってくるでしょう。
国連公海条約は、公海の保全に向けた前進ではありますが、合意事項には依然としてギャップがあります。
例えば、この条約は公海上での既存の活動を監督する規制当局よりも優先するものではなく、引き続き国際海底機構(ISA)などの組織が深海採掘プロジェクトを管理することを意味しています。これに対し、フランスやドイツ、スペイン、ニュージーランドなどの国々は、海洋生物への影響が懸念される中で、深海採掘に対する「予防的な一時停止」を求めています。
さらに、この条約には拘束力がありません。例えば、海洋保護区に反対する国は、国境内であれば漁業やその他の活動を続けることができます。
プラスチック条約
廃プラスチックに対処するための国際文書の策定に向けて、進展が見られています。法的拘束力のある、プラスチック汚染をなくすための新たな条約に向けて現在協議中で、2025年までの採択を目指しています。
プラスチック汚染は人間の健康と環境に悪影響を与えます。1950年以降で、65億トンのプラスチックが埋立地に、または自然投棄されました。その結果、太平洋ゴミベルトの面積は160万平方キロメートルに及んでおり、これはフランスの国土面積の3 倍にも相当する規模です。
このような政策面での進展にもかかわらず、海洋における産業活動の急拡大は、それを管理しようとする規制を上回るペースとなっています。いくつかのセクターでは、海洋資源と海域をめぐって競争が過熱しており、それが環境や地域社会に被害を及ぼすケースも見られます。こうした被害や紛争の要因となっている海運や漁業、掘削セクターに焦点を当てた2021年の調査では、被害を軽減するための一連の原則が示されています。
私たちがすべきことは?
少しの介入によって大きな変化をもたらす可能性があると考えています。例えば、政府による補助金は公海条約の対象になっていません。しかし、補助金がなければ、公海漁業の半分以上は利益を生むことができません。最も破壊的な漁法と考えられている底引き網漁は、補助金がなければ年間2億3,000万ドルの損失を生むという調査レポートもあります。
このような有害な慣行に対しては、資金提供を止めることが重要であると考えています。
解決策として、魚介類調達におけるサステナビリティの向上、富栄養化への取り組み、農薬や重金属など汚染物質への対処、石油掘削や輸送による水中騒音の抑制、海洋ごみの防止などを挙げることができます。具体的には、使い捨てプラスチック製品の禁止、船舶運航業者にすべての廃棄物を港に持ち帰るよう要請すること、自然環境中に放出されるマイクロプラスチックの削減といった取り組みが考えられます。
より幅広い対策を講じるには、関係するすべてのセクターの環境政策にコミットすることが必要となるでしょう。例えば海運セクターでは、2050年までに同セクターの炭素排出量を半減させるという国際海事機関(IMO)の目標がありますが、これには液化天然ガスエンジン、グリーン水素、アンモニア、畜電池分野でのテクノロジーの進展さらには従来の運航方法への回帰といったことも必要となります。
「ブルーエコノミー」は、海洋から恩恵を受けるすべての利害関係者に影響を与えます。「ブルーエコノミー」の実現には、乱獲から持続可能な漁業・水産養殖への移行、炭素を吸収する沿岸生態系の保護・保全、自然資本や観光面での価値向上といった様々な取り組みが必要です。
これまでの成果は?
投資家として、またお客様の資産をお預かりする運用会社として、私たちは海洋生態系のサステナビリティに貢献する役割があると考えています。以下、この数年間で行った取り組みの事例をいくつか紹介します。
サステナブル関連投資の当社アプローチに沿って、海洋エネルギー・海洋鉱物資源、海洋汚染削減、魚介類、海上輸送、沿岸生態系という海洋に関連した5つのテーマに投資するブルーエコノミーETF(上場投資信託)の提供を始めました。この投資戦略は、天然魚への漁獲圧力を軽減し、海洋汚染や化学廃棄物を削減し、温室効果ガス排出量の削減にも寄与する、サケの養殖業者への投資も行います。
また、エコシステム・リストレーション(生態系回復)戦略は、環境問題において生態系回復に対する投資家の関心が高まっていることを受けて設定したものです。この戦略は、陸上や都市の生態系だけでなく、海洋生態系の回復に貢献する世界の企業に投資を行います。
また、スチュワードシップ活動においては、14社の製薬会社に対し、エンドトキシン検査にカブトガニの血液を使用することを中止するよう働きかけ、カブトガニの個体数を保護するための措置を講じました。カブトガニは、私たちが活用しているほぼ全てのワクチンや注射薬、インプラント医療機器の検査に使用されています。規制当局が承認した代替成分を使用することで、絶滅危機にあるカブトガニが回復に向かう可能性は高まります。
サステナブルな未来に向けて進む中、今年の「世界海洋デー」に際して、投資家や資産運用会社が陸上生態系と同様に海洋生態系にも注目することが不可欠であると、改めて思い起こすことが重要と考えています。
