気候変動会議COP27(国連気候変動枠組み条約第27回締約国会議)において、「損失と損害」(気候変動によって引き起こされた途上国の「損失と損害」を指す)の問題を前進させることは、レジリエント(回復力のある)でより平等なネットゼロ世界への公正な移行を実現するための基本となります。以下、Global Head of Sustainability ResearchであるAlexander Bernhardtが、COP27についての見解をまとめています。
エジプトでの COP27が近づくにつれ、気候正義は多くの国の議題の上位にあり、とりわけ「損失と損害」という言葉が会議前の議論の中心となっているようです。
気候変動の影響を最も受けた国、つまりグローバル・サウス(アフリカ、ラテンアメリカ、アジアなどの途上国)が、気候変動の拡大に歴史的に責任を負った国々、つまりグローバル・ノース(先進諸国)によって補償されるべきという「損失と損害」の問題は、毎年のCOPでの交渉において長期にわたり問題となってきました。
裕福な国々は伝統的に、気候変動への非難と責任に関する議論を避けるため、この問題に反対してきました。しかし、流れは変わりつつあるようです。グローバル・ノースが気候変動に関与してきた役割を認め、グローバル・サウスに報いるよう求める圧力が高まっています。
前向きな動きも見られています。デンマークは最近、これまでの流れに反して、「損失と損害」に対して資金を拠出することを決めました。そして、米国や欧州連合(EU)も、この問題に関する協議を支持しています。
途上国側も、COP27のホスト国であるエジプトとともに、今年の会場となるシャルム・エル・シェイクで、「損失と損害」の突破口を探っています。地球温暖化による海面上昇の被害を受ける小島嶼国同盟は、グラスゴーで開催されたCOP26で実現できなかった「損失と損害」に対応する基金創設を提案する予定です。ドイツは、気候変動リスクの影響に対して迅速な財政対応を可能にするグローバル・シールド(Global Shield)と呼ばれる保障基金を提案しましたが、広範にカバーされていないという理由で気候運動家には受け入れられていません。
途上国がこの問題を進めようとするのには、十分な理由があるようです。脱炭素化の取り組み支援のために先進国が2020年までに年1000億ドルを資金拠出するという目標は依然として達成されておらず、先進国の取り組み失敗による資金不足によって、その達成は2023年もしくは2024年までずれ込むと予想されています。
公正な移行と、それが投資家にとって意味すること
COP27 の会議が成功するためには、「損失と損害」について有意義な進展をもたらすことが重要です。パキスタンでの壊滅的な洪水など気候災害が大きな混乱をもたらす中、途上国がこうした賠償や気候正義を要求するのは正しいと私たちは考えています。
気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は今年、公正な移行に向けた進展を加速させることの重要性を強調するとともに、持続可能な開発は、包摂性のある社会の実現も同時に強化できるとの見解を示しました。
民間セクターは、公正な移行と気候適応への資金提供において、それを必要とするコミュニティで大きな役割を果たすことができます。投資家としてはどのような行動よりも、社会的要因を資本配分やスチュワードシップ活動に統合すること、あるいはソーシャルボンドへの投資を行うことです。
COPの議題で他の注目点は?
気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、すでに33 億人が気候面で脆弱な地域に住んでいると推定しており、気候変動への適応や回復力についても進展が必要です。仮に地球温暖化を産業革命前の水準から1.5℃以内に抑えることができたとしても、人類の健康、生活、水の供給、食料安全保障に対するリスクは依然として残る可能性があります。
気候緩和についても、これまで通りに議論の中で重要な位置付けとなっていますが、私たちはここでもまだやるべきことがあると考えています。昨年グラスゴーで開催されたCOP26で各国は、NDCs(国が決定する貢献)として知られる気候に関する公約を強化することに合意しました。COP27を控え、グラスゴーでの分析(およびそれ以降のより詳細な試算)によって、世界の気温上昇を1.5℃に制限するためには協働する必要があることが示されたためです。
国連が最近公表したNDC統合報告書によると、COP26以降に、公約を改定したのは24カ国のみで、エジプトでの会議では多くの改善の機会が残されています。そしてNDCの強化の後は、議論したことを実現に向かわせることが重要であると考えています。
実際、COP27で気候関連のファイナンスの問題を提起する可能性が高いインドは、NDCを改定は、テクノロジーと先進国からの資金移転を条件としていると述べています。
不公平な状態が続くと気候変動への取り組みが妨げられる可能性が高いため、気候変動に最適に対処するためには、ネットゼロへの公正な移行を進めることが不可欠であると考えられます。もっと言えば、不平等が続くことを許しながら気候変動問題を解決できたとしても、それは環境の悲劇と社会的な悲劇のトレードオフにすぎません。
私たちは、公正な移行の原則が、途上国がNDCでなされた公約を実現できるようにするためのカギになると信じています。化石燃料を一足飛びに低炭素の代替エネルギーに切り替える場合、先進国は適切な支援を提供する必要があります。ここでは、「損失と損害」と同様に、グローバル・ノースと民間部門の投資家がやるべきことがたくさんあります。
